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音楽について広く扱うブログ

今年の音楽系イベントはどうなる?緩和指標と現実問題

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 はじめに

 首都圏の1都3県と北海道で続いていた緊急事態宣言が、5月25日に解除された。宣言解除とともに、経済活動をコロナ危機以前の状態に戻すべく、種々の方針が発表。これまで原則自粛となっていたイベントも、段階的に制限を緩和していく方針だ。

  業界人やファンにとって朗報のように思えるが、すでに夏の大型イベントは中止・延期となったものが多い。また、段階的に緩和されるとはいえ、しばらく制限がつくことには変わりはない。本記事では、政府発表の「段階的緩和の目安」についてと、今年開催予定の音楽系イベントがどのような問題を抱えているかについて述べていきたい。

 

「段階的緩和の目安」の概要

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  まずは、「段階的緩和の目安」の概要について説明する。詳しい内容については、上掲の画像または引用元を参照してほしい。上掲の画像は、『第36回新型コロナウィルス感染症対策本部』配布資料(https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/sidai_r020525.pdf)から引用した。徹底した感染防止対策、感染拡大の兆候の発現あるいはクラスター発生の際はイベントを中止・延期、全国的移動を伴うものには格段の注意を払う等、イベントを開催するにあたっての前提条件が、いくつか付けられている。また、しばらくの間は、動員できる観客数に上限が設定される。約3週間おきに、次第に緩和されていくが、完全解禁の時期は示されていない。

 人数制限については、注意する点がある。収容率と人数上限の関係についてである。ステップ①の時期(5月25日~)は、「基本的な考え」では、屋内イベントに対して収容率50%、人数上限100人という制限がつけられている。収容率というのは、会場のキャパシティに対してどれくらいの人数がいるのか、を表す。例えば、キャパ1000人の会場に300人の観客が集まれば、収容率は30%となる。では、ステップ①の時期に、キャパ1000人の会場に500人が集っていいのか、というとそうではない。「段階的緩和の目安」では、人数が少なくなる方を適用する。ステップ①の時期では、キャパ200人以下の会場では収容率を、200人を超えるキャパを持つ会場では人数上限を採用する。すなわち、ステップ①の段階でイベントを開く場合、たとえ東京ドームのような巨大な会場でも、100人を超す観客はNGとなるのだ。

 8月1日を目途に、コンサート・展示会・プロスポーツすべてで人数上限が撤廃され、収容率のみで考えることになる。アリーナモードのキャパが22500人の「さいたまスーパーアリーナ」は11250人、キャパ17000人の「横浜アリーナ」は8500人、オールスタンディングで約2700人収容できる「Zepp Tokyo」は1350人までと、それぞれ制限が課される。

 一方、お祭り・野外フェスは、全国的・広域的なものについては、ステップ③の時期が終わるまでは一切自粛の方針のようだ。移行期間後も、しばらくは開催を慎重に判断することを要求している。地域の祭など、特定地域からの来場を見込み、かつ人数の把握が可能な場合は、ステップ②の時期から開催できる。

 

開催に踏み切れない事情

 目安が発表されたとはいえ、簡単にはイベントを行うことはできない。音楽系のイベントではないが、筆者の地元群馬における最大級の祭、「高崎まつり」を例に挙げてみよう。「段階的緩和の目安」発表後の26日、高崎市は今年度の「高崎まつり」中止を発表した。開催予定日は9月5日(土)・6日(日)の2日間で、移行期間後の時期にあたる。よって、十分な間隔を空ける等の対策を取れば、一応は開催可能だ。しかし、それでも開催を見送った。高崎市のホームページには、以下のように記されている。

9月5日(土)及び6日(日)に開催を予定していた、「第46回高崎まつり」、「第18回高崎山車まつり」及び「第37回高崎市技能祭」につきましては、今般の新型コロナウイルス感染症による影響に伴い、その拡大防止はもとより、参加団体の練習時間や実施団体の準備のための時間が不足するなどの理由で、各実行委員会から実施困難である旨の意見が寄せられました。 本市では、来場者の安全と安心を確保する観点から、高崎市最大のイベントである3つの祭り(大花火大会を含む)について、各実行委員会からの意見を尊重し、中止することになりました。 

 

www.city.takasaki.gunma.jp

新型コロナウィルスの拡大の防止および準備不足が、中止の判断を下した要因だとしている。新規感染者が激減したとはいえ、新型コロナウィルスそのものが消滅したわけではない。いつでもぶりかえす危険性はある。ワクチンができるまでは、大型イベントは控えるべきと主張する専門家もいる。コロナの驚異が去っていない以上、イベントを開催するのにはリスクが伴う。また、緊急事態宣言が解除されたからといって、大人数で集まって準備をすることも、すぐには再開できない。しばらくの間は、準備の方も遅々として進まないだろう。「高崎まつり」中止の決定は、妥当と言える。

 「高崎まつり」に限らず、他のイベントも同様の事態に直面していると思われる。特に、準備の時間が足らないという点は、部外者にはわかりにくいものである。中止・延期を発表したイベントのうち、準備不足を理由に挙げているものは少ないが、実際には多くのイベントで、それが主要な中止・延期要因の一つになっていると思われる。「段階的緩和の目安」が発表されて光が差したかのように一見思えるが、コロナ拡散防止、準備不足という事情が、イベント開催を妨げている

 

音楽系イベントの抱える問題

 上述の「段階的緩和の目安」およびイベント開催に踏み切れない事情を鑑みながら、現時点で開催が予定されている、筆者が注目、あるいは参加しようと思っていたイベントを例に挙げて、どのような問題点があるか指摘する。

フジロックフェスティバル

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 通称フジロック。例年7月下旬または8月上旬に、苗場スキー場を舞台に行われる国内最大規模の音楽フェス。20年以上の歴史を持つ。今年は8月21日(金)~23日(日)と、ややイレギュラーな日程。出演者はヘッドライナーを務める電気グルーヴのほか、デトロイト・テクノのパイオニアの1人デリック・メイ紅白歌合戦にも出場した人気沸騰中のバンドKing Gnu、「未来から来たR&B」FKA Twigs、マンチェスター発の新世代ピアノトリオGO GO Penguinなど、国内外から錚々たる顔ぶれが揃う。野外ステージが大半だが、屋内ステージも1つだけ存在する。午前4時~5時まで解放されているエリアもあり、ほぼ一日中観客で溢れることになる。例年の動員数は、前夜祭を含めた計4日間で、のべ125000人。先日、日経が中止報道を漏らしたが、誤報と発覚した。

 出演者数も多ければ、観客の数も非常に多い。当然、スタッフの数も多くなる。全国各地から客が押し寄せる、所謂全国的・広範的な野外フェスに該当する。目安から考えると、8月下旬は、大規模野外フェス開催には慎重を要する時期である。十分な間隔を取れればよいとされるが、野外フェスの形式上、それも難しいと感じる。感染対策の徹底は、人数の多さから困難を極める。また、海外アーティストもたくさん出演する予定だが、日本のコロナ危機が収束していても、国外状況が改善していなければ、来日することは難しい。日本側としても、容易に渡航制限を解くことはできない。

 微妙な開催時期、参加人数、対策徹底の難しさ、国外状況に左右される、などの観点から、開催は難しいだろう。また、その規模と、スキー場が会場という特殊性から、延期もないと思われる。

(6月5日追記)

海外アーティストの招待が困難、日本もいまだ危機的状況にある等の理由から、今年度のフジロックフェスティバルの延期が6月5日に発表された。延期と言っても、来年8月への延期であるから、実質的な中止である。会場がスキー場であるため、夏以外の開催は難しく、数か月先に開催日時を変更することは難しかった。

rollingstonejapan.com

Animelo Summer Live

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 通称アニサマ。今年で15周年を迎える、世界最大のアニメソングのライブイベント。例年、8月下旬にさいたまスーパーアリーナで開催される。今年は8月28日(金)~30日(日)。2013年からは3日間に拡大した。アニソンを専門とする歌手や声優だけでなく、岡崎体育スキマスイッチなど、アニソンを歌っていれば、専門ではなくとも出演する。日程が3日間となってからは、のべ8万人以上の人が来場している。埼玉の緊急事態宣言が解除された5月25日、「animelo mix」会員限定チケット先行抽選予約および「ANiUTa」会員限定チケット先行抽選予約の日程が発表された。5月29日(金)より受付開始。

 開催時期は、8月1日から3週間以上離れている。どのように制限が変わるかは不明だが、ここでは収容率50%までの制限がかかるとする。単純計算で、1日に14000人程度しか会場に入ることはできない。とはいえ、14000人でも相当な人数だ。

 問題なのは、開場までSSA周辺に観客がたむろすることである。加えて、会場外には物販などを目当てに、チケットを持たない人も多数訪れる。SSA周辺は、決して開けた場所ではないので、人口密度が上がりがち。なるべく人が密集しないようにしないといけないが、地形的に難しい面もある。

 フジロックと違い、延期という選択肢もある。客の入りが半分となると、基本的には赤字である。開催しないよりはマシかもしれないが、それならば夏開催は見送り、冬に制限の少ない状態で延期公演を行うというのも一つの手段ではないだろうか。しかし、冬は冬で、新型コロナウィルスが再び流行する可能性があると予測する専門家もいる。いずれにせよ、年内開催はリスクがつきまとう

(追記 5月29日)

5月28日の夕方、開催を延期することが、運営から発表された。延期公演は来年の夏ということで、実質的な中止である。

natalie.mu

 

アイドルマスター シンデレラガールズ NEXT LIVE(仮)

 今年の2月15日(土)・16日(日)に行われた「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 7thLIVE TOUR Special 3chord♪ Glowing Rock!”」にて開催が発表。9月に開催予定とのことだが、詳細はいまだ不明であり、日程も会場も出演者もわからない。近年のシンデレラガールズのライブは、ドーム会場だったり、複数会場だったりと、規模の巨大化が目立つ。普通、「○th」のように、何回目のライブかを表す序数が付く。しかし、SS3Aのように、『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』周年イベントが、毎年開かれるライブとは別に行われたこともある。よって、現時点では、8thライブなのか、『デレステ』の周年イベントなのかは、定かではない。どっちにしろ、規模が大きいイベントなのは確かである。

 開催時期が9月であり、どこまで規制が緩和されているかはわからない。それよりも大きな問題は、準備不足である。デレマスのライブは、準備にかなりの時間をかけると言われている。本来ならばライブに向けて準備が着々と進められていたはずだが、新型コロナウィルスの影響で、準備のための時間もほとんど取れていないことだろう。ライブの完成度を考慮するならば、規制が緩和されていたとしても延期あるは中止を選択する可能性が高い。前述の「高崎まつり」と同じ問題を抱えていると言える。

 9月開催ライブであれば、普通は詳細が発表されていていいころだが、これといったアナウンスがなく、中止or延期の雰囲気が漂っている。7月までには、なんらかの発表があるだろう。
(8月12日追記)
デレステ』5周年記念企画として、9月5日(土)19時から24時間生放送の配信が決定。ライブに関してはいまだ音沙汰がないが、実質的にこれがライブの代わりということだろう。

マジカルミライ

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 日本発のヴァーチャル・アイドル初音ミクのライブ。毎年8月上旬と9月上旬に、千葉と大阪で開催。2か所開催が通例になったのは一昨年から。千葉公演は幕張メッセ、大阪公演はインテックス大阪で行われるのが近年の流れ。また、開催日数も3日間に増加した。ホログラムを使った特殊なライブで、その性質上座席も特殊な並びをしている。それゆえ、通常のライブより動員数は少ない。また、日本のライブとしては珍しく、座席によって値段が違う。ライブの他に、企業などが出店する企画展も同時開催されている。ライブチケットがなくとも、企画展には入場可能(要企画展のチケット)。今年度は、オリンピックが予定されていたこともあり、千葉公演は9月ではなく、12月18日(金)~20日(日)の予定である。しかし大阪公演は、5月14日に開催延期の発表があった。筆者が参加しようと思っていたのは、千葉公演である。

 本記事で取り上げたイベントの中では、一番時期が遅い。そのため、予定通りの開催が一番期待できるイベントではある。とはいえ、新型コロナウィルスが季節性のウィルスとなり、冬に再び猛威を振るうのではないか、という予測をする専門家もおり、安心はできない。冬までに新型コロナウィルスの感染拡大が収束しているとも限らない。加えて、幕張メッセ東京五輪の競技会場にしていされていて、五輪延期の影響で使えなくなる可能性もなくはない。

 

今年の音楽系イベントの行方

 筆者個人としては、今年の夏のイベントは、8割方中止か延期だろうと見ている。規模の大きいイベントは、どうしても感染対策を徹底するのが難しい。もし、イベントを切っ掛けに感染が拡大してしまえば、バッシングで済む話ではない。また、準備不足も大きな課題となる。イベントが開かれたとしても、小規模なものに限定されるだろう。冬に開催予定のイベントも、安心して開催できるわけではない。結局、胸を張ってイベントを実施するには、ワクチンの登場を待たなければならないだろう

 

終わりに

 以上、「段階的緩和の目安」が発表されたからといって、種々の観点から、手放しで喜べるわけではないことを述べた。現状我々にできることは、個人でできるレベルの感染対策を徹底して行い、ワクチンの登場を待つことだけである。しばらくは、音楽業界にとっても、ファンにとっても、辛い時期が続く。しかし、今は辛抱するしかない。